1 工学部の教育理念
(1)課程制導入の背景
芝浦工業大学は1927年の開学以来、「社会に学び、社会に貢献する技術者の育成」を建学の精神に掲げ、実学主義の教育を展開してきました。そして、これまでに多数の優れた卒業生を輩出し、今日では産業界から高い評価を得ています。
しかし、現代の社会は変化が激しく、社会で求められる人材のニーズも変わってきています。産業構造の変化や社会の複雑化により、複数の分野の知識が必要とされる時代になってきているのです。例えば、自動車産業においてはかつて機械工学が中心的な役割を担ってきました。しかし、電気自動車の普及や自動運転の実用化に向けた研究開発が進むにつれ、従来のアプローチだけでは対応できない課題が生じてきます。例えば、電気自動車の開発には電気電子工学の知見が必要ですし、バッテリーの高性能化のためには物質化学分野の知識も必要となります。また、自動運転の進化のためには、ソフト・ハードの両面において情報・通信工学分野が大きな役割を担います。さらに、これらの技術が普及することで都市インフラの整備や交通システムの設計においても新たな課題が生じるでしょう。その際には土木工学的な知見も必要となります。このような多角的な視点を必要とする変化は、自動車産業に限らず、あらゆる業界で見られます。つまり、一つの分野に特化した知識だけではなく、複数の分野の知識を統合して課題に対応できる人材のニーズが高まっているのです。
このような時代の要請に応えるため、工学部では2024年度から課程制を導入します。「分野横断教育」「研究を軸とした実践型教育」「課題発見・解決型人材教育」の3つを教育の柱に据え、新時代を切り開く人材を育成していきます。
(2)工学部の 「教育研究上の目的」 および 「3ポリシー」
【教育研究上の目的】
工学部では、現代社会が抱える様々な課題を自ら発見、解決する工学技術者を養成するため、確かな基礎学力に基づく各専門分野の高い専門能力に加え、工学部内の多彩な専門分野を横断的に学べる新たな教育プログラムにより学際的な思考能力を涵養します。さらに、修得した分野横断的知識に加え、研究を軸とした実践型教育により課題解決能力を高め、様々な課題の本質を捉え、学際的アプローチにより解決する能力を涵養し、持続可能な社会の発展に、多様な価値観と高い倫理観をもって貢献する創造性豊かな人材を養成します。具体的には、卒業までに以下に挙げる能力を持った人材を養成することを教育研究上の目的とします。
- 工学専門教育の修得に必要な基礎学力・教養を身に付けている。(豊かな教養を涵養する学修)
- 工学の専門知識と論理的思考法を体系的に学び、身に付けている。(工学知識の体系的学修)
- 複数分野の知識を修得し、学際的な思考能力を身に付けている。(分野横断的知識の修得)
- 研究を通じ、課題を発見・解決し、未踏分野に挑戦できる力を身に付けている。(創造性の育成)
- 社会の要求、多様な価値観を理解し、他者と協働して主体的に行動できる能力を身に付けている。(他者との共生)
【ディプロマ・ポリシー】
工学部は、確かな基礎学力に基づく高い専門能力を備え、社会が抱えるさまざまな課題を発見・解決することで、持続可能な社会の発展に貢献する創造性豊かな人材を育成します。そして以下の能力を身に付けて卒業要件を満たした者に、学位を授与します。
- 豊かな人格形成の基本と基礎的な学力を備え、課題を自ら発見し、関係する人々と意思疎通を図りながら協働できる。
- 工学の本質の体系的な理解に加え、分野横断的な知識による多様な手法によって課題の核心に迫り、その解決方法を導き出せる。
- 工学技術者教育や研究を軸とした実践型教育を通じ、社会の多様性を認識して高い倫理観を持った理工学人材として行動できる。
【カリキュラム・ポリシー】
工学部ではディプロマ・ポリシーに掲げる能力を身に付けるため、以下の教育課程の編成、教育内容・方法および学修成果の評価に基づいた教育を実施します。
教育課程の編成
教育課程を「基礎・教養科目」と「専門科目」に区分し、工学を体系的に学修できるように科目を以下のように配置する。
「基礎・教養科目」は、「数理基礎科目」「英語科目」「情報科目」「人文社会系教養科目」「体育健康科目」「工学部共通教養科目」の細区分で構成した科目を配置する。また「専門科目」は、「工学部共通専門科目」「自コース専門科目」「他コース専門科目」の細区分で構成した科目を配置する。
教育内容・方法の実施
- 技術者として必要な基礎能力を得るため、各科目で質の高い授業を展開する。
- 「数理基礎科目」「英語科目」「情報科目」「人文社会系教養科目」により、工学の専門教育の修得に必要な基礎学力・教養・倫理観を涵養する。「体育健康科目」「工学部共通教養科目」により社会の要求、多様な価値観を理解し、他者と協働して主体的に行動できる能力を育成する。
- 「専門科目」では工学の専門知識と論理的思考法を体系的に学び、身に付ける。また未踏分野に挑戦し、社会における課題を自ら発見、社会の多様性を認識しながら他者と協働して解決できる創造性豊かな技術者を養成するため、研究を軸とした実践型教育を実施する。
- 複数分野の知識を修得した学際的な思考能力を養成するため、技術者に必要な分野横断的知識を学修する。具体的には、所属するコースの専門科目に加えて所属するコース以外の専門科目履修も可能とする。
- カリキュラムツリーを示し、学修・教育到達目標に応じた科目履修の理解を促す。
学修成果の評価
- 単位制を採用し、学修成果を総合的に評価する。
- 各コースに設定した学修・教育到達目標、各授業科目の達成目標に対して、学修成果が一定のレベルに達した際に単位を付与する。
- 所属するコース以外からの専門科目を履修し、所定の条件を満たした場合に副コース認定を行う。
【アドミッション・ポリシー】
工学部では知識偏重教育ではなく、実践型教育による課題解決型人材の輩出に力点を置いた教育を行なっています。そのため、本学の建学の精神と工学部の教育方針、各コースのカリキュラム、教育・研究の内容をよく理解した、以下のような学生を求めます。
(工学部が求める人物像)
- 工学部での学修・研究を強く志望し、関連する教育分野における基礎学力を身に付けた人
- 工学各分野における技術と、その基礎・応用に興味がある人
- 実際に対象に触れ、実践的に学修・研究することに価値を見出す人
- 国際的な視野を持って社会の課題解決に主体的に取り組み、人類や社会の持続的発展に貢献しようという意志を持つ人